【コラム】バイリンガル教育とは?歴史や事例、メリットや注意点について解説します!
世界のグローバル化とともに日本の英語教育の重要性も一層高まり、2020年には小学校3年生から必修化されました。「わが子には幼児期から英語を学ばせて、のちのちは世界で活躍できるバイリンガルになってほしい」。そう考えている人も少なくないでしょう。
しかし、間違った言語学習を行うと、二か国語のどちらも中途半端な状態になるなどの危険性も。
そこで今回は、「バイリンガル教育」の定義や歴史などについて紹介するとともに、そのメリットや目指す場合の注意点も解説していきます。
(1)バイリンガル教育とはどのようなもの?
1.バイリンガルの定義
2.バイリンガル教育の歩み
3.バイリンガル教育の種類
(2)よくあるバイリンガル教育の事例
1.別国籍の父母による家庭内教育
2.海外赴任などで現地校に通う
3.プリスクールや英会話スクールに通う
(3)バイリンガル教育を受けるメリット
1.脳のトレーニングになり、学習能力がアップ
2.コミュニケーション能力が向上、視野が広がる
3.情報収集・発信力を身につけ、グローバルに活躍できる
4.その他の外国語も習得しやすくなる
(4)バイリンガル教育の注意点
1.二つの言語を混合してしまう
2.母語である日本語がおろそかになる
3.日本独自の文化やマナーになじめない
4.帰国子女でも帰国後に話せなくなる
(5)まとめ
(1)バイリンガル教育とはどのようなもの?
1.バイリンガルの定義
バイリンガル「bilingual」とは、「bi」=2つの「lingual」=言語、つまり2カ国語が話せる人のことを指します。
同様にトリリンガル(トライリンガル)「trilingual」は3カ国語、マルチリンガル「multilingual」はそれ以上の言語が話せる人を表します。
日本においては日本語と英語が話せるというバイリンガルが多いのではないでしょうか。では、英語がどの程度話せれば「バイリンガル」と呼べるのかというと、定められたレベルはないようです。
バイリンガルというと「ビジネスシーンでも流ちょうに操れる」といった高度な言語レベルを思い浮かべる人も多いかもしれません。TOEICでいうと800点以上、英検準1級、1級を持っているような人です。
しかし、本来は第二言語を使ってある程度の日常会話ができるというレベルであれば「バイリンガル」と呼べるようです。中高大学とある程度英語を勉強してきた人であれば、すでにバイリンガルの域に入っているのかもしれません。
2.バイリンガル教育の歩み
世界規模の移動が可能となり、異なる言語の人々が同じ場所に住むようになると、当然言葉の問題が発生します。他民族を抱えるアメリカを例にバイリンガル教育の発展を見てみましょう。
アメリカでは1800年代からバイリンガル教育がスタート。オハイオ州では、英語に加えドイツ語での授業が行われていました。そのほか、スペイン語、フランス語、広東語、ポルトガル語など、各州の移民の状況に合わせて英語以外の言語が学校教育に取り入れられていたようです。
その後、第一次世界大戦が勃発すると、敵対国の言語、特にドイツ語は問題視され、「国内統一のためにも英語のみを使用すべき」という考えが広まりました。
一時下火になったバイリンガル教育ですが、第二次世界大戦後にさらに移民・難民が増加。英語を理解できない子どもが授業についていけないという問題も増え、正当に教育を受ける権利を求める声も高まって、改めて英語以外の教育対策を考える必要が出てきました。
それから今日に至るまで、バイリンガル教育への取り組みは随時見直されながら発展。現在では、「英語を使用できるようにする」ためだけではなく、「母語も英語も伸ばしていく」という、母国の言葉や文化・アイデンティティも大切にするプログラムも広がってきています。
具体的な内容については次で紹介しますが、各国のバイリンガル教育は、その方針や情勢、国民の状況、人権や権利を求める声などによって異なり、その時々で変化していくものと言えるでしょう。
3.バイリンガル教育の種類
アメリカをはじめ世界において近年行われているバイリンガル教育のうち、特徴的な2タイプを紹介します。
「移行型バイリンガル教育」とは、少数派言語話者の子どもたちを「主流派である言語を話せるように移行させる」ことを目的とした教育法です。
最初は母国語である少数派言語にて授業を受け、主流派言語の理解力がついてきたら主流派言語のみの授業を受けるようになります。ある程度まで母語で授業を受けることは学習理解の推進を助けるものの、のちのち主流派言語しか使わないようになると、母国の文化やアイデンティティの喪失が危惧されます。
移行型バイリンガル教育は、マイノリティである少数派言語話者をマジョリティである国民に同化させることを目指しています。
一方、主流派言語とともに母語の成長も見据えたプログラムも近年取り入れられるように。それが「双方向イマージョン教育」です。
クラスでは主流派言語話者、少数派言語話者の子どもが混在し、ともに学びます。学校により違いはありますが、主流派言語で行われる授業と少数派言語で行われる授業は約半数ずつとなっています。もしくは、最初は少数派言語の授業の割合が多く、徐々に半数に近づけていく、といった調整がなされます。
この教育法では、母語である言語の学習も継続されます。異なる言語を持つ子どもたちが互いの文化を尊敬し理解し合いながらともに学ぶことで、異文化への許容力を持ったバイリンガルに育っていくことを目的としています。
細かく言えばこの2タイプ以外にもバイリンガル教育は多彩にあります。それらは、「主流言語への統一」を目的とするのか、「多彩な言語の維持・共存」を目的とするかで大きく分けられます。
日本においてのバイリンガル教育に目を向けると、外国にルーツを持つ子どもたちに対しては「移行型」に近い教育がほとんどだったと思われます。一方で、日本人が目指すバイリンガルは、「日本人としてのアイデンティティを確立しつつ、他言語や文化が理解できる人」ではないでしょうか。この点において、今後国内でも双方向イマージョン教育が広まっていくかもしれません。
(2)よくあるバイリンガル教育の事例
1.別国籍の父母による家庭内教育
父親、もしくは母親が外国人の場合、子どもは生まれながらに二つの言語に親しみやすい状態です。外国人である親族と交流するなど、第二言語で会話する機会が多くなります。
「外国語が簡単に学べてうらやましい」と思う人もいるかもしれませんが、実は、ハーフの子どもが必ずしもバイリンガルになるとは限らないのです。
日本にいる場合、家を一歩出るとほとんどが日本語です。第二言語で話すことを子どもが恥ずかしいと感じることもあります。結局、中途半端にしか習得できずに日本語しか話せないということも。
子どもをバイリンガルに育てるには、両親の積極的な働きかけが必要になります。まず、子どもと話す時はそれぞれの母語を必ず使うこと。片方の国の言語に偏ってはいけません。両親の国の文化も機会があることに教え、親しみを持たせるようにするといいでしょう。
2.海外赴任などで現地校に通う
親の仕事の都合などで海外暮らしが長くなると、子どもがバイリンガルになる可能性が高くなります。例えば、アメリカの現地校に通うとなれば、英語を使わざるを得ず、自然と語学力も上がっていきます。
ただ、逆に日本語を話せなくなってしまう危険性もあります。日本語能力をキープするため家庭では日本語を使うルールにする、など親の努力が不可欠に。特に、いずれ帰国して国内の学校に進学する、など日本で暮らす予定があるのであれば、日本語での会話や読み書きができないと苦労することになります。
3.プリスクールや英会話スクールに通う
英語を早期から学ばせたいと考える親御さんは、「プリスクール」を検討したことがあるかもしれませんね。プリスクールとは、英語で保育・幼児教育を行う施設のこと。先生には、ネイティブスピーカーのほか語学に堪能な日本人が充てられます。
一般の幼稚園と同じく毎日通うスクールもあれば、週2日など選んだ日数で通うところも。スクールで使われるのは基本英語のみ。語学を柔軟に吸収できる幼児期に英語漬けの環境で過ごさせることにより、ヒアリング力、スピーキング力などを高めることを目的としています。
また、幼児向けの英会話スクールを活用している家庭も。スクールによって異なりますが、歌・ダンス・ゲームや知育を取り入れるなどの工夫がなされているところも多く、勉強というよりも英語を楽しいものと認識し、自然となじんでいくことに重点が置かれています。
(3)バイリンガル教育を受けるメリット
1.脳のトレーニングになり、学習能力がアップ
バイリンガルの人は、単一言語を話す人(モノリンガル)に比べて集中力や記憶力が優れているといわれています。その理由として考えられているのは、二つの言語を習得するため、また随時切り替えを行うために脳の神経回路が強化されるということです。
つまりは、バイリンガルであれば他の教科の学習力アップも期待できるのです。
高齢になってもこの効果は続くとされ、「バイリンガルのほうがモノリンガルに比べて認知症になる人が少ない」という研究結果も出ています。
2.コミュニケーション能力が向上、視野が広がる
英語が話せれば世界の15億人と話せる、と言われています。日本以外のさまざまな人とコミュニケーションが取れれば、ぐんと知見を広げることができるでしょう。
他の言語を学ぶ、ということは、その国の文化に触れることにもつながります。英語であれば、英語圏の慣習・風習、宗教、人々の思想、歴史なども少しずつ知っていくことになります。言語は異文化に触れる入り口となり、多様な価値観を認められる広い視野を育ててくれるのです。
3.情報収集・発信力を身につけ、グローバルに活躍できる
英字新聞や英語のニュースサイトを読んでみると、日本のものとはかなり違いがあることに気が付くでしょう。国際情勢に対する観点、主張などは各国により異なります。日本語しかわからないと日本目線でしか世界を見ることができませんが、理解できる言葉が多いほどさまざまな視点から読み解くことができ、より正確に状況を判断することができます。
また、ツイッターなどのSNSでは世界各国の人が情報を発信しています。英語が読めるならその分、得られる最新情報も増加。いち早く情報をキャッチでき、自らの考えも世界に発信できるようになれば、おのずと活躍の場は広がっていくでしょう。
4.その他の外国語も習得しやすくなる
日本人からすると英語は習得が難しい言語です。しかし、いったん英語のバイリンガルになることができれば、同じゲルマン語系のドイツ語や、文法の並びが似通っているラテン語系のスペイン語、フランス語、イタリア語なども習得しやすくなります。
「英語を完璧に習得してから」と考える必要はなく、たまにはスペイン語をかじってみよう、というように並行して学習するのもおすすめ。それぞれの言語の共通点や違いを楽しみながら学ぶことができますよ。
(4)バイリンガル教育の注意点
1.二つの言語を混合してしまう
先述したように、バイリンガル教育では「一親一言語」が基本とされています。例えば父親がアメリカ人で母親が日本人である場合、母親が子どもに対してときに英語、ときに日本語と両方で話していたらどうなるでしょう。言語を習得途中の子どもの場合、母親の話す言葉のどれが日本語でどれが英語か分からなくなり、「I want to ジュース飲みたい」といったごちゃまぜの言葉を話すようになる危険性があります。親自身が日英を混ぜた言葉で話しかけるのももちろん悪影響です。
父親は英語、母親は日本語、としっかり分けること。両親が日本人の場合であれば、「今は英語の時間」と子どもにわかるように言語を使う時間を区切るようにしましょう。
2.母語である日本語がおろそかになる
日本語の基礎を作るべき幼少期に、英語習得ばかりに注力して母語を学ぶことをおろそかにすると、日本語の語彙(ごい)が少なく言語としてレベルが低くなってしまいます。そして、第二言語は母国語がしっかり身についていないと習得できないのです。
英語を学ぶにしても、「これはどういう意味か」「どういうシーンで使用するのか」といったことは日本語で考えますよね。日本語が不十分だと英語の習得も進みづらくなります。
高校、大学の入学試験においても、英語のリーディング、スピーキングだけできればいいというわけではありません。複雑な長文問題では、日本語が十分にできないと設問が理解しきれない、日本語で十分な解答を書けない、ということも起こり得ます。
幼いころから英語に触れるのは悪いことではありませんが、まずは日本語をきちんと学ばせることを念頭に置いておきましょう。
3.日本独自の文化やマナーになじめない
特に、海外で幼少期を過ごしたバイリンガルに多いようですが、帰国後に日本の文化や風習、マナーが分からずとまどう、ということもあります。
学校においては縄跳びやリコーダー、書道などが「海外ではやったことがない」として困ったことに挙げられています。そのほか、食事のマナー、人付き合いのマナー、ビジネスの決まり事などになかなかなじめないという人も。
海外在住の場合、すべてを学ぶことは難しいもの。しかし、いずれ日本での生活を考えているのであれば、親が教えられる範囲で日本の文化、マナーを伝えていくことが必要です。
4.帰国子女でも帰国後に話せなくなる
子どもが流ちょうに英語を話す状態で帰国したのに、「どうしてこんなに早く忘れてしまうの」と親がびっくりすることも。日本は圧倒的に日本語話者が多い国です。英語を使う機会がない中で、子どもの柔軟な脳は英語を「必要のないもの」としてすぐに忘れ去ってしまいます。
帰国子女がその語学力をキープするには、親子での努力が欠かせません。英会話スクールに通う、オンラインレッスンを受ける、海外在住時の友人とテレビ電話をする、英語の本を読んだりCDを聞かせたりするなど、英語に触れる機会を作り続けることが大切です。
(5)まとめ
一つ言えるのは、「楽しければ子どもは学ぶ」ということです。親はまず、外国語を学ぶ楽しさ、たくさんの人と会話できる楽しさを体感させてあげるようにしましょう。
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